LOGINその言葉には、心からの同情と、ミーシャへの深い思いやりが込められていた。 アリアの優しさが、静かにユウヤの胸に染み込んでいく。
「……ありがとう、アリア。」
ユウヤは、彼女が理解してくれたことに安堵し、そっと微笑むと、転移魔法を発動させて家へと戻った。
──すると。
「ユウちゃーんっ!」
玄関先に現れたユウヤに、笑顔いっぱいのミーシャが勢いよく駆け寄ってくる。 その姿を見たアリアも、ぱっと表情を明るくし、まるで反射するようにミーシャのもとへ駆け出した。
そして、ためらいもなくミーシャの手をぎゅっと握る。
「わぁっ!? え? なに……?」
ミーシャは突然のことに戸惑い、目をぱちくりとさせながらアリアの顔をじっと見つめた。
「ミーシャちゃん、わたしが一緒にいてあげるからね。」
アリアは、優しく微笑みながら語りかける。 その手は、ミーシャの小さな手をそっと包み込むように握っていた。
「え? あ、うん……ありがと〜?」
ミーシャは戸惑いながらも、アリアのまっすぐな優しさに押されるように、少し照れたような笑顔で返事をした。 そして、ちらりとユウヤの方を見つめる。 その視線には、どこか安心と、ほんの少しの照れが混ざっていた。
ユウヤはその様子を見て、静かに息を吐いた。 ──このふたりなら、きっと大丈夫だ。
(あ、そういえば……紹介してなかったな)
「こっちは、俺のパーティメンバーのアリアだ」
ユウヤがそう紹介すると、ミーシャは少し緊張した面持ちで、ぺこりと小さく頭を下げた。ネコ耳がぴくりと揺れ、どこか落ち着かない様子が伝わってくる。
「アリアちゃん……よろしく……」
その声はかすかに震えていたが、ミーシャなりに精一杯の挨拶だった。
(あれ……? ミーシャが急に大人しくなってる……。もしかして、人見知り? アリアも人見知りなのに……大丈夫か、これ)
ユウヤは、ふたりの様子を見守りながら、内心で少しばかり不安を覚えた。けれど、どこかぎこちないながらも、ふたりの間に流れる空気は、どこか優しく、あたたかかった。
「それじゃ、早速出発しようか」
ユウヤがそう促すと、アリアはふとミーシャの存在に気づき、少し驚いたように尋ねた。
「え? ミーシャちゃんも一緒に行くの?」
「一人にしておけなくてさ……。最近は、ひとりで森に入ってたんだって」
ユウヤが事情を説明すると、アリアは目を丸くし、驚きと心配が入り混じった声を上げた。その表情には、ミーシャへの深い懸念がにじんでいた。
「えぇ……ダメだよ? 危ないよぉ……!」
その言葉に、ミーシャはしゅんと肩を落とし、視線を下げた。小さな体が、まるで叱られた子どものように縮こまる。
「あっ……わ、わぁ……えっとぉ……怒ってるんじゃないの……! その、心配で……注意しただけで……!」
珍しく少し強めに言ってしまったアリアは、慌てて両手をばたばたと動かしながら弁解し始めた。言葉を探すように口ごもりながら、必死にミーシャの気持ちを傷つけまいとしている。
「えっと……アリアはミーシャを怒ってるんじゃないから、落ち込むなよ?」
ユウヤが優しくフォローを入れると、ミーシャは目に涙を浮かべながら、そっとユウヤに抱きついてきた。そのまま、アリアにもぎゅっと抱きつく。
小さな体が、ふたりの優しさに包まれるように、かすかに震えていた。
「ごめんなさい……もりには、もうひとりじゃ入らないぃ……」
ミーシャは、か細い声で、けれどしっかりと謝った。その素直な言葉に、アリアもほっとしたように微笑み、そっとミーシャの背中を撫でた。
「キツく注意しちゃって、ごめんね」
アリアは、ミーシャの目を見て、優しく謝った。その手がそっと伸びて、ミーシャの頭を撫でる。指先はやわらかく、まるで風が触れるような優しさだった。
「ううん。あぶないんでしょー?」
ミーシャは、少しだけ首をかしげながらも、素直に受け止めている様子だった。
「うん。魔獣が出るから、ほんとに危ないんだよ」
「わかったぁー」
ミーシャは、ふたりの言葉に納得したように頷いた。ネコ耳がぴょこぴょこと揺れ、表情もすっかり明るさを取り戻している。
家を出ると、すぐ目の前が森という立地は、冒険者にとってはとても便利だった。行き来が楽だし、薬草も豊富に採れる。しかも、ユウヤはこっそりと村長から許可も得ていた。
(うちの裏の森は、最近魔物の出現が増えてるらしくて、村人は近づかないらしい。だから薬草を採る人もいない。自由にしていいって言われたし、これはありがたいな)
「そうだ。薬草、採り放題の許可ももらったよ」
ユウヤがアリアに伝えると、アリアの目がぱっと輝いた。まるで宝物を見つけたかのように、瞳がキラキラと光っている。
「ほんと!? やったぁ~! これでポーションの材料、いっぱい集められるねっ!」
アリアは嬉しそうに両手を握りしめ、ぴょんと小さく跳ねた。その姿に、ミーシャもつられて笑顔になる。
「やくそうって、そんなにすごいの?」
「うんっ! すごく大事なの。ミーシャちゃんも、あとで一緒に探してみようね」
「うんっ♪」
こうして、三人の小さな冒険が、穏やかに始まろうとしていた。
わたしは、他の人とは少し違うみたいだった。生まれつき魔力が人より多く、その力が強すぎるせいで、気軽に魔法を使えなかったんだ。普通に魔法を使ってしまうと、みんな変な顔をして、驚きや戸惑いを浮かべながら、スーッとわたしから離れていってしまう。たまに仲良くしてくれる子もいたけれど、その間にはいつも目に見えない壁があるようで、胸の奥がチクチクと痛むのを感じていた。少し寂しかった。 だから、使う魔法はいつも低級魔法だけ。威力を最低限に抑え込み、光の粒が優しく舞うような、細心の注意を払った魔法だけ。周りの様子をよく見て観察して、みんなに合わせた魔法と威力を使うようにする。それはとても面倒で神経を使うことだったけれど、仕方がない、これが普通の子になるための努力なんだと言い聞かせていたんだ。でも、そう努力しても、もうすでに手遅れだったのかもしれない。幼い頃、周りの大人に「すごいね」「天才だ」って褒められるのが嬉しくて、自分の力を誇示するように、散々魔法を見せてしまっていたから。 大人たちも、他の子とは接し方が違った。わたしを特別扱いして、「アリアを見習って魔法の練習をしなさい!」なんて、他の子に言ったりするから、それが余計に、わたしから友達を遠ざけてしまったんだ。特別ではない、ただのアリアとして接してくれる人は誰もいなかった。 そんな時、わたしの特別な力を気にせず、ただただ一緒に遊んでくれたのが……ユウくんだった。彼はわたしに「普通」を求めてこなかった。ユウくんも、とても変わったスキルを持っているみたいで、きっと色々と苦労しているんだろうな、って、その背中から感じてた。 それに、ユウくんも魔法がかなり得意みたいで、わたしに合わせているような感じがしたんだ。少し前に、わたしがうっかり間違えて中級魔法を放っちゃったことがあったけれど、その時、ユウくんも同じ中級魔法をあっさり使っていて、わたしは心の底から驚いたんだ。それで確信した。ユウくんは普通に中級魔法を使える人なんだ、って。そして、きっと魔法の難易度を理解していないほどの、規格外のとんでもない使い手なんだろうなって。 ユウくんは、わたしを唯一甘やかしてくれて、まるで妹のように接してくれた。もちろん、ダメなことはちゃんと
♢ミーシャの過去 空は晴れ渡り雲一つなく、青空がキレイに広がり吸い込まれそうなほどだった。光の粒が降り注ぐような美しい景色は、人の心を慰める力を持っている。だが、ミーシャにはその美しい青空は見えていなかった。なぜなら……両親が魔獣に襲われ、二人とも殺されてしまったからだ。彼女の視界に入るのは、俯いているせいでただの土や石の地面だけだった。その足取りは重く、喪失感に沈んでいる。 空き地のほうで人が集まり、騒いでいるのが聞こえてきた。普段は気にすることなく通り過ぎるだけだったが、ちらりと見ると、この村に住む住民ではない者たちだった。しかもネコの獣人ではない、人間だとすぐにわかった。 話し合いがされているようで、皆で移動を始めた。その方向は……かつて自分の住んでいた、大切な自宅の方向だった。胸の奥が冷たくなり、嫌な予感が全身を駆け巡った。(まさか、わたしの自宅が? あの人間に使われるの!?) ミーシャはムスッとした表情で、通り過ぎる人間たちを睨んでいると、その中の一人と目が合った。気まずいと思うが、ミーシャには関係なかった。怒りが心の大部分を占める。なんとかしなければ……わたしの自宅が……乗っ取られてしまうかもしれない。 ミーシャはこっそりと後を付け、物陰に隠れながら様子を見ることにした。 予想は的中し、人間たちはミーシャの自宅へと案内され、皆が喜んでいた。その楽しそうな声が、ミーシャの心を深くえぐる。「むぅ……どうしよう……わたしの家がぁ……もお……誰か助けて……」 ミーシャは心の中で呟いた。声に出せば、感情が爆発してしまいそうだった。 両親が亡くなり、村のお荷物な存在となってしまってからは、友達がいなくなってしまい、誰にも相談ができなかった。村全体から食料を集め、食事を貰っているような状態だったからだ。面倒を見てくれる人はいたが、それは義務的なもので、心を通
♢シャルの真意と告白、そして新たな始まり このままスキルだか能力をかけたまま放置していると不味いな。それにしてもシャルが俺をねぇ……前に言ってたことは本気だったってことか。心に余裕がなくて、冒険者か、恋心かを優先するのか悩んで暴走しちゃったのかな?「いつものシャルに戻ってくれ。ちょっと話をするか……」 ユウヤは言葉に魔力を込め、シャルにかけた能力を解除した。「え? う、うん。分かった……なにを話してたんだっけ?」 シャルは、ぼーっと焚き火を見つめ、振り返り首を傾げて聞いてきた。パチッ、パチッ! と焚き火が爆ぜ、火の粉が夜空に舞う。オレンジ色の焚き火の炎が周囲を幻想的に照らし、シャルの横顔を美しく魅力的に見せてくる。(ん……その表情は、可愛すぎて危険だっての……勘弁してよ) ユウヤは、シャルの可愛らしい仕草に内心たじろいだ。「あー。ずっと一緒に住むって話だろ?」 ユウヤが言うと、シャルはハッとしたように言った。「あ、そうだった! ホントに勝手にするからねっ! 今更取り消しとか……ナシだからねっ」「そうだな……ずっと一緒に住むか……。シャルなら問題ないだろ」 ユウヤの言葉に、シャルは驚いた表情でグイグイとユウヤに近寄ってきた。「は? え? い、意味分かってて言ってるの?? そんな返事をしちゃって良いの? わたし勘違いしちゃうよぉ?」 ユウヤは、はぁ、と息を吐き、正直な気持ちを伝えた。「はぁ。俺も好きだったしなぁ……ずっと一緒に居たいとも思ってたし」「……ばかぁ。だったら何で離れて行っちゃったのさぁ〜ばかぁ……っ」 シャルは、ユウヤの胸を軽く叩き、涙ぐんだ。「それは、俺だけが悪いの
♢シャルの変化と告白 散歩だったはずが……いつの間にか討伐の話に変わっている。ユウヤは昼間にアリアたちを強制的に帰宅させてしまった手前、討伐に付き合うのは避けたい気持ちもあった。(別に俺が参加をしなくても良いんじゃないか? 別行動とは言わないが、討伐組と寛ぐ組に分かれて待ってるのも良いかもな)「シャルは、討伐か?」 ユウヤが尋ねると、シャルは首を振った。「もう、討伐は遠慮しておく……。あぁ、でも魔獣は欲しいかも……テイムしたいかな」「そうか、それは明日に一緒に討伐についてくるか?」 ユウヤが誘うと、シャルは満面の笑みで答えた。「うん。ユウくんが一緒なら安心だね」(おいおい……こんな性格だったか……?? 素直過ぎて気持ち悪い……違和感しか無いぞ) ユウヤは、シャルの変わりように内心で戸惑った。「アリアは?」 ユウヤがアリアに視線を向けると、アリアは少し考え込んだ様子で言った。「うぅ〜ん……ミーシャちゃん一人じゃ可愛そうだし……心配だから付いて行こうかなぁ」「悪いけど、頼むよ」 ユウヤが頼むと、アリアは柔らかな笑顔で「はぁい」と答えた。 気づけば、シャルと二人っきりになってしまった。久しぶりで、ユウヤは少し緊張を覚えた。「シャル、急に素直になって……気味が悪いぞ」 ユウヤは、単刀直入に尋ねた。 シャルは首を傾げた。「ん? そうかな? 前は、どうしても強くなって最強のパーティに入って活躍しないと! って思ってたからね。ユウくんパーティって、最強になると思って……どうしても入りたくてさぁ〜」「そうかな? そんな感じじゃないんだけどなぁ」 ユウヤは、
♢ギルドへの報告とケルベロスとの生活 ユウヤは、ギルドマスターに説明した。「討伐はしていませんが、魔石の管理は俺がしますし……盗難も考えられませんし……。ケルベロスが暴走をしても、俺が注意すれば収まるでしょうし。問題ないと思いますよ。この村へ連れてくるわけじゃないですし、ケルベロスを見たのは俺とアリアとミーシャだけですし……ダンジョン内には、あの元悪魔を名乗る獣人くらいしかいませんから」 ユウヤは、自分が死んだらケルベロスを止める者がいなくなるので、その後のことまでは責任が持てないことを付け加えた。「魔石ごと消滅させ、封印をしたので復活する可能性は少ないと思いますよ。絶対とは言い切れませんが……俺が、死ななければ問題ないと思います」「と言うことは……完全に討伐の成功ですな! しかも封印までして頂けるとは!」 ギルドマスターは、安堵の表情で声を上げた。その顔には、心からの感謝が浮かんでいる。 冒険者たちは死を覚悟していたようで、ユウヤの言葉に気が抜け、その場へ座り込み、安堵の表情を浮かべた。近くにいた冒険者と顔を見合わせ、笑い合っていた。冒険者同士の絆が深まり、連帯感も生まれ、皆いい表情をしている。(さて、報告も終わったし帰るか……いつものパターンなら、この後は宴会になるのを知っている、その前に逃げ出そう) ユウヤはそう判断すると、ミーシャの真似をして音を立てずに移動し、スッと消えるように転移魔法で帰宅した。 家に入ると……リビングの床にシャルとケルベロスが向かい合わせに座り、見つめ合っていた。「……何してるんだ?」 ユウヤが尋ねると、シャルはケルベロスから目を離さずに答えた。「観察……」「……そう」「うん」(シャルとは長い付き合いだっ
♢ケルベロスとの帰還「ただいまー」 ユウヤが家に足を踏み入れると、心配そうな表情でアリア、ミーシャ、そしてまさかのシャルまでが駆け寄ってきた。シャルの表情は、演技ではないようだった。その顔には、安堵と不安が入り混じっている。「ユウくんっ! 勝手に転移で帰宅させるんだもんっ。ひどいよっ。まだ戦えたのに! ちょっと油断しちゃっただけだよぉ」 アリアは、ぷんぷんと怒ったようにユウヤに詰め寄った。その口調は不満げだが、瞳には心配の色が浮かんでいる。「むぅ……わたしは回避したのにぃっ」 ミーシャも、不満げに口を尖らせた。「それで、どうなったの? ……で、それなに??」 シャルがユウヤの足元にいるケルベロスを見て、不思議そうなものを見る表情で観察を始めた。(あ、そっか……シャルは魔物や魔獣を見るのが好きだったんだ。昔から観察してたよな……いや。俺も、観察させられてたよな) ユウヤは、シャルの意外な一面を思い出した。「あーダンジョンで拾った」 ユウヤは、適当に答えた。「え? 飼うの? わぁ〜すごい! ユウくんに懐いてるみたい!」 アリアは目を輝かせた。「まるでテイマーみたい! カッコいい」 ミーシャも、興奮したように言った。(あぁ〜なんかそんな職業もあったよな。魔物、魔獣、獣とかを契約かなんかで操るんだっけ? 指示を出すんだよな……戦闘じゃ役に立たないって噂を聞いたけど? 討伐に向かう先より強い魔獣を用意しないとだろ? じゃないと勝てるわけがないし。 情報や撹乱、偵察、物資の運搬には役立つと思うけどね。テイマーねぇ……契約かぁ) ユウヤは、テイマーという職業について考えを巡らせた。 その話を聞いたアリアとミーシャは、呆然とケルベロスを見つめ、固まっていた。「ユウくん…&hellip